本サイトはアフィリエイト広告を利用しています。掲載順は当サイトの基準で決めており、報酬額では変わりません。
コラム/契約と消費者トラブル
見積書の、次に来るもの署名する前に、
読む場所があります。
見積書の見方は、あちこちに書かれています。ところが、そのあとに署名する契約書について書かれたものは、ほとんど見当たりません。
総務省行政評価局が、遺品整理サービスの事業者から契約書の提供を受け、記載されていた条項をそのまま報告書に載せています。実際に使われている文言です。ここに消費者契約法の条文を重ねると、どこを読めばいいかが見えてきます。
なぜ契約書の話が、どこにも書かれていないのか
一 「損害賠償の責任は負わない」
報告書に載っている条項です。
本業務における責任は、すべて甲(依頼者)が負うものとし、乙(事業者)は業務についての損害賠償責任は負担しないが、乙の責に帰すべき事由によるときは、乙がその賠償の責を負う。
総務省行政評価局・報告書 表7(事業者C₃)1
後半に「乙の責に帰すべき事由によるときは、乙がその賠償の責を負う」とあります。この一文があることで、責任の全部を免除する条項にはなっていません。
ここで条文を見ます。消費者契約法8条1項1号は、こう定めています。
事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
消費者契約法 第8条第1項第1号(同項柱書は「無効とする」と定める)2
つまり、「当社は一切の責任を負いません」だけで終わっている条項は、法律が無効と定めている型に当てはまります。同条は、故意または重大な過失による場合の一部免除(2号)、不法行為による損害の全部免除(3号)・一部免除(4号)についても同じく無効と定めています2。
見るのは「ただし書き」があるかどうか
免責の条項があること自体は、珍しくありません。読むときに探すのは、「当社の責めに帰すべき事由による場合はこの限りではない」に当たる一文があるかです。それが無い契約書で、作業中に家財や建物が傷ついたときの話が通らなくなります。
なお同法8条3項は、重大な過失を除く過失の場合にのみ適用されると明らかにしていない一部免除の条項も無効と定めています2。「軽過失のときだけです」と書いていない一部免除も、そのままでは通らないということです。
二 「作業完了時に申し出なければ、その後は請求できない」
破損などが後から見つかったときの条項です。
破損などのトラブルに関する請求は、甲(依頼者)乙(事業者)同席のもと確認する作業完了後の確認時に申し出ることとし、その後の請求はできないものとする。
総務省行政評価局・報告書 表7(事業者C₄)1
その場で気づけるものであれば、合理的な取り決めとも読めます。一方で、家財を運び出したあとの床のキズや、後日に分かる不具合は、その場では見つけられません。
消費者契約法10条は、法令の規定と比べて消費者の権利を制限する条項のうち、民法1条2項の基本原則(信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効と定めています2。どこからがそれに当たるかは個別の判断で、当サイトでは決められません。
できるのは、署名の前に確かめておくことです。「後日に見つかったキズは、いつまで申し出られますか」と聞いて、返ってきた答えを書き足してもらう。作業完了時には、同席して部屋を一周し、写真を残しておく。この2つで、争いになる場面をかなり減らせます。
三 「遺品の所有権を放棄する」
持ち帰る家財の扱いについての条項です。
お客様が、当社サービス(遺品整理などの全サービス)をご利用(ご依頼)される際は、お引取りする「ご不要になった物(以下、品物)」の所有権(占有権)を全て放棄し、当社の処分方法について一切の意義を申し立てないものとします。
総務省行政評価局・報告書 表7(事業者C₆)1
持ち帰ったものをリユースに回すのか処分するのか、事業者側で決められるようにする条項です。同じ事業者の契約書には、続けてこう書かれています。
ただし、全てのサービスにおいて、お客様の認知の有無に関わらず、作業中に現金や貴金属など高価値品を発見した場合、権利放棄後であっても所有権はお客様のものとし、当社はその全てをお客様にお渡しすることを約束するものとします。
同(事業者C₆)1
この後半があるかどうかが、読む場所です。タンスの奥から現金が出てくることも、通帳や権利証が出てくることもあります。前半だけの契約書だと、その扱いが書面の上では決まっていないことになります。
報告書には、買取のしくみを使う事業者の例も載っています。ある事業者は、古物商の許可を使って「貴重品(現金、貴金属、有価証券等)を除く家財一式」を買い取り、所有権を自社に移す形を取っています1。ここでも貴重品は除かれています。買取を伴う場合の古物商許可については別の記事にまとめました。
四 「相続人を代表して契約する」
ご家族が複数いる場合の条項です。
甲(依頼者)は、相続人の立場にある場合には、本契約において相続人を代表して締結することとし、本契約締結後に他の相続人との間で発生した損害は全て甲が負担する。また、相続人間で発生した問題は全て甲が対応する。
総務省行政評価局・報告書 表7(事業者C₅)1
事業者の側から見れば、家族の内部でもめたときに巻き込まれない、という趣旨です。依頼する側から見ると、署名した人が一人で背負う設計になっています。
片付けを始めてから「あれを捨てたのか」と言われることは、実際に起こります。防ぐ方法は事務的です。作業の前に、他の相続人に一報を入れておく。形見にしたい物があれば先に聞いておく。残すものと処分するものを写真で共有しておく。
なお、相続放棄を考えている場合は、片付けに着手すること自体が影響することがあります。順番が逆にならないよう、相続放棄と片付けの記事を先にご覧ください。
五 キャンセル料
報告書には、2社の条項が載っています。
| 事業者 | 契約書の定め |
|---|---|
| 事業者C₇ | 作業予定日の前日の午前10時までに連絡することとし、連絡がなされない場合は請負代金の金額分をキャンセル料として支払う |
| 事業者C₈ | 当日キャンセルは見積金額の40%、前日キャンセルは見積額の20%を請求する場合がある |
総務省行政評価局・報告書 表7より、条項の要旨1。
ここも条文があります。消費者契約法9条1項1号は、解除に伴う損害賠償の額や違約金を定める条項について、次のように定めています。
これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
消費者契約法 第9条第1項第1号(同項柱書は「無効とする」と定める)2
キャンセル料を取ること自体が禁じられているわけではありません。無効になるのは平均的な損害の額を超える部分です。人員を確保し車両を押さえた当日のキャンセルと、2週間前のキャンセルとで、事業者に生じる損害は違います。
「その金額の根拠は何ですか」と聞けます
同法9条2項は、事業者はキャンセル料を請求する場面で消費者から説明を求められたときに、算定根拠の概要を説明するよう努めなければならないと定めています2。努力義務ですが、条文にある以上、尋ねてよいことです。
契約の前であれば、こう聞けます。「キャンセル料は、何日前からいくらになりますか。その金額はどう計算されていますか」。日程が動きやすい状況(警察の現場検証が続いている、鍵がまだ返ってこない)では、先に確かめておく価値があります。
なお、事業者に自宅へ来てもらって契約した場合は、訪問販売としてクーリング・オフの対象になることがあります。ただしこちらから呼んだ場合は対象外になることがあるため、呼び方によって変わる話もあわせてご覧ください。
六 秘密保持と個人情報
報告書には、依頼者の秘密保持や個人情報の取扱いを定めた条項も載っています1。ある事業者の条項は、契約期間中か期間満了後かを問わず、契約に関して知り得た秘密を第三者に開示・漏洩してはならない、という形です。
特殊清掃の現場では、亡くなった経緯も、部屋の状態も、事業者に知られます。これが外に出ないという約束が書面にあるかどうかは、確かめておいてよい項目です。集合住宅で、近隣に事情を知られたくない場合はなおさらです。
作業車に社名が入っているか、作業着に表示があるか、という点も同じ話です。見積のときに「近隣に分からないようにできますか」と聞けば、対応の可否がその場で分かります。
署名の前に、この6つ
1免責の条項に「当社の責めに帰すべき事由による場合は除く」があるか
責任の全部を免除する条項は、消費者契約法8条が無効と定める型です2。
2後日に見つかったキズは、いつまで申し出られるか
「作業完了時のみ」と書かれていたら、期限を尋ねて書き足してもらう。完了時の写真も残します。
3現金・貴金属・通帳が出てきた場合の扱いが書いてあるか
所有権の放棄の条項があるときは、貴重品を除く旨の一文があるかを見ます。
4キャンセル料は、何日前からいくらか。根拠は説明されるか
平均的な損害の額を超える部分は無効です。算定根拠の説明は努力義務として条文にあります2。
5相続人が複数いる場合、署名する人の負担がどう書かれているか
代表して契約する形なら、作業前に他の相続人へ一報を入れておきます。
6秘密保持の条項があるか。作業車や作業着の表示はどうか
近隣に知られたくない事情がある場合は、見積の段階で確かめます。
読んでみて引っかかったのに、その場で判断がつかないときは、署名を先に延ばして構いません。消費者ホットライン188から、お住まいの地域の消費生活センターにつながります3。特殊清掃は、1日待ったからといって取り返しがつかなくなる作業ではありません。
この記事の要点
- 総務省の報告書には、事業者から提供された契約書の条項が原文のまま載っています。
- 「損害賠償の責任は負わない」と全部を免除する条項は、消費者契約法8条が無効と定めている型です。
- 「作業完了時に申し出なければ、その後は請求できない」という期間の制限も、条項として実在します。
- キャンセル料は、同種の契約で事業者に生じる平均的な損害の額を超える部分が無効になります(9条)。
- 「遺品の所有権を放棄する」条項がある一方、現金や貴金属が出たら返すと書き添えた事業者もいます。
- 相続人の代表として契約し、他の相続人との問題は依頼者が対応する、という条項もあります。
- 個別の条項が有効かどうかは当サイトでは判定できません。消費生活センター(188)で相談できます。
よくあるご質問
契約書を出してくれない事業者がいます
書面を求めてください。国民生活センターは、遺品整理サービスの相談事例として、契約内容がはっきりしないまま作業が進み、後から高額を請求された例を公表しています。金額と作業範囲、キャンセルの扱いが書かれた書面が出せない場合は、その場で決めないほうが安全です。3
「無効になり得る」条項がある契約書に、署名してしまいました
条項が無効であれば、その部分は初めから効力を持ちません。ただし、有効か無効かの判断は個別の事情によります。請求を受けて困っている場合は、契約書と見積書、やり取りの記録を持って消費生活センター(188)にご相談ください。2,3
条項を書き換えてもらうことはできますか
契約は双方の合意ですので、申し入れること自体はできます。実務では、条項そのものを直すより、確認した内容を見積書の備考欄や別紙に書き足してもらう形が通りやすいです。「後日発見のキズは◯日以内」「貴重品は依頼者に返す」といった一行でも、書面に残れば話が変わります。
次に読むページ
出典
- 総務省行政評価局「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書(令和2年3月)」https://www.soumu.go.jp/main_content/000675388.pdf(2026-08-05取得)
- e-Gov法令検索(平成12年法律第61号)「消費者契約法(第8条 事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効/第9条 消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等/第10条 消費者の利益を一方的に害する条項の無効)」https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061(2026-08-18取得)
- 独立行政法人国民生活センター「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル(2018年7月19日公表)」https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20180719_1.html(2026-08-04取得)
会社の許可・料金・サービス内容は変わります。当サイトは取得日を添えて記録していますが、依頼の前にご自身でも最新の内容をご確認ください。