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コラム/法令と責任
借りている側にできること条文は「減額される」と
書いてあります。
隣のお部屋で起きたことに、あなたは関われません。そのことは前の記事に書きました。部屋に入ることも、清掃を発注することもできません。
ただ、あなたが借主であれば、話はそこで終わりません。あなたと貸主の間には契約があり、民法に条文があります。何が書かれているのかを確かめます。
隣で起きたことでも、あなたと貸主の間には契約があります
整理します。関係は3つに分かれています。
- 一 隣のお部屋のこと
ご遺族、相続人、そのお部屋の貸主の話です。あなたは当事者ではありません。
- 二 建物全体のこと
共用部分の管理は、貸主または管理会社の仕事です。
- 三 あなたのお部屋のこと
ここにはあなたの契約があります。この記事はここの話です。
におい、虫、共用廊下の汚れ。それがあなたのお部屋の使用に影響しているのなら、三つ目の問題でもあります。隣の話だからと諦める前に、条文を見てください。
貸主には、修繕をする義務があります
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
民法 第606条第1項1
ここでいう「修繕」は、壊れたものを直すことに限られません。使用及び収益に必要なことが基準です。においで窓を開けられない、虫が入ってくるという状態が、その基準に当たるかどうかは個別の判断になります。当サイトでは判定できません。
できるのは、事実を伝えて対応を求めることです。伝え方は次の章に書きます。
「うちの管轄ではない」と言われたとき
隣室の話だから、と断られることがあります。そのときに立ち返るのが、この条文です。あなたが求めているのは隣室の清掃ではなく、あなたのお部屋を使える状態にすることです。
共用廊下や外壁を通じて影響が出ているのであれば、そこは貸主・管理会社の管理する範囲です。「どこまでが自分の管轄か」を相手に確かめてもらうところから始めてください。
611条は「減額される」と書いています
ここがこの記事の中心です。条文をそのまま引きます。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
民法 第611条第1項1
読んでいただきたいのは、文末です。「減額を請求することができる」ではなく「減額される」と書かれています。
ただし、ここで慎重になってください。この条文が働くには、「使用及び収益をすることができなくなった」と言える状態であることが前提です。においがつらい、という事実だけでその判断ができるわけではありません。どの程度から当てはまるのかを、当サイトは判定できません。
そして2項です。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。
民法 第611条第2項1
さらに、全部が使用及び収益をすることができなくなった場合については、賃貸借はこれによって終了すると定められています(616条の2)1。
自分の判断で家賃を止めないでください
条文が「減額される」と書いているからといって、翌月から勝手に減らした額を振り込むのは危険です。減額の割合について貸主と認識が合っていなければ、不足分は滞納として扱われます。滞納は契約の解除の理由になり得ます。
順番は、先に申し入れて、書面で合意するです。合意ができないときは、次の章の窓口にご相談ください。
貸主が動かないときの条文
連絡しても対応してもらえない場合に、借主の側でできることも定められています。
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
民法 第607条の21
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。
そして、支出した費用については次のとおりです。
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
民法 第608条第1項1
ここで注意が要ります。この条文が及ぶのは、あなたが借りている「賃借物」の範囲です。隣のお部屋を勝手に清掃することはできません。他人の住居であり、費用を負担する立場にもないためです(近隣の方へ)。
できるのは、ご自身のお部屋の側の手当てです。1号の「通知」を先に済ませておくことが要件になっていますので、口頭で伝えただけにせず、記録に残る形で伝えてください。
実際の進め方
1記録に残る形で通知する
メールか書面で、いつから・どんな状態か・生活のどこに支障が出ているかを伝えます。607条の2第1号は「通知し」たことを要件にしています1。電話だけだと、後から通知の事実を示せません。
2状態を記録しておく
日付入りの写真、においを感じた時間帯のメモ、虫が出た場所。後から作れないのは記録だけです。換気や窓の開閉ができなかった日も書き留めてください。
3対応の期限を確かめる
「いつまでに、何をしてもらえますか」。607条の2は「相当の期間内」という言い方をしています1。期限の見込みを相手から出してもらってください。
4合意した内容を書面にする
賃料の扱いを決めたなら、その金額と期間を書面に残します。口頭の了解は、担当者が代わると残りません。
それでも折り合いがつかないときは、当サイトでは判断できません。消費者ホットライン188、または法テラス(0570-078374)にご相談ください。窓口は困ったときの相談先にまとめています。
出ていくことを考えている場合
「もうここには住めない」と感じておられるなら、費用の見当を先に持っておくほうが決めやすくなります。
- 解約の予告期間契約書に書かれています。多くは1か月前ですが、契約によります。まず契約書をご確認ください。
- 611条2項の解除残った部分だけでは借りた目的を達せられないときの解除が定められています1。当てはまるかどうかの判断は専門家にご相談ください。
- 敷金と原状回復退去時の負担の切り分けは国交省ガイドラインの記事にまとめました。
- 引越し費用誰が負担するかは、話し合いと責任の所在によります。ここも当サイトでは判定できません。
お部屋のにおいそのものについては、においが消えないときとにおいの正体の記事をご覧ください。発生源が隣室にある場合、ご自身の部屋をいくら掃除しても戻ります。
この記事の要点
- 貸主は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います(民法606条1項)。
- 借主の責めに帰すべき事由による場合は、その義務から外れます(同項ただし書)。
- 使用及び収益ができなくなった場合、借主に責任がなければ、賃料はその割合に応じて減額されます(611条1項)。
- 条文は「減額を請求することができる」ではなく「減額される」と書かれています。
- 残った部分だけでは借りた目的を達せられないときは、契約の解除ができます(611条2項)。
- 通知したのに相当の期間内に修繕されないとき、または急迫の事情があるときは、借主が修繕できます(607条の2)。
- 貸主の負担に属する必要費を支出したときは、直ちに償還を請求できます(608条1項)。
よくあるご質問
減額されるのは、いくらですか
条文は「使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて」としか定めていません。具体的な割合は個別の事情によります。当サイトでは金額を示せませんので、貸主との協議か、消費生活センター・法テラスなど専門の窓口にご相談ください。1,2
分譲マンションを買って住んでいます。同じ条文は使えますか
これらは賃貸借の条文なので、所有して住んでおられる場合には当てはまりません。管理組合を通じた対応になります。分譲の場合の進め方は /column/kanri-kumiai/ の記事にまとめています。1
管理会社に伝えましたが、貸主に伝わっているか分かりません
管理会社が窓口であっても、通知の事実を残しておくことが大切です。メールで送る、書面で渡して控えをとる、といった形にしてください。607条の2は「賃貸人がその旨を知った」場合も挙げていますが、知ったかどうかを後から示すのは通知した側の負担になります。1
隣室の清掃費用を、こちらから請求できますか
費用を負担する立場にないため、その形は成立しません。あなたが求められるのは、ご自身の契約に関することです。隣室そのものについては、動かせる立場の方(貸主・管理会社・相続人)に動いてもらう必要があります。1
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出典
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「民法(明治29年法律第89号)第7条・第11条・第15条・第465条の2・第465条の4・第606条・第607条の2・第608条・第611条・第616条の2・第621条・第653条・第654条・第656条・第885条・第896条・第897条・第898条・第899条・第904条の3・第906条・第907条・第909条の2・第915条・第921条・第939条・第940条」https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(2026-08-18取得)
- 日本司法支援センター「法テラス(日本司法支援センター)サポートダイヤル 0570-078374。平日9時〜21時/土曜9時〜17時。情報提供と、弁護士・司法書士による無料法律相談や費用の立替え(民事法律扶助)の案内」https://www.houterasu.or.jp/(2026-08-18取得)
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