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コラム/相続と手続き
話がつかないまま、時間だけが進むとき止まるものと、止まらないものが
あります。
ご兄弟の間で話がつかない。連絡の取れない相続人がいる。誰が費用を出すのかが決まらない。片付けの現場で、いちばんよくあるつまずきです。
ここで知っておいていただきたいのは、話し合いが止まっていても、止まらないものがあるということです。何が動いていて、何が待っているのか。条文で仕分けします。
まず、共有になっています
止まるもの
| 止まるもの | なぜ |
|---|---|
| 不動産の名義変更(本登記) | 誰が取得するかが決まらないと、登記できません |
| 実家や土地の売却 | 共有物なので、単独では処分できません1 |
| 空き家の解体 | 建物の処分にあたるため、同じです |
| 遺品の分配(形見分け) | 相続財産にあたる物は、分割の対象です |
ここで多くの方が「では何もできない」と受け取られます。ところが、そうではありません。
止まらないもの
こちらが本題です。話し合いの状況とは無関係に進みます。
| 止まらないもの | 起算点 | 期限 |
|---|---|---|
| 相続の承認・放棄1 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 | 3か月 |
| 準確定申告 | 相続の開始を知った日の翌日 | 4か月 |
| 相続税の申告 | 相続の開始を知った日の翌日 | 10か月 |
| 相続登記の申請義務 | 所有権を取得したことを知った日 | 3年 |
| 遺産分割の期間制限1 | 相続開始の時 | 10年 |
期限の詳細は手続きのページに、10年の意味は別の記事に、3年に間に合わないときの手当ては相続人申告登記の記事にまとめました。
そして、お金のほうです。こちらは期限ではなく、毎月出ていきます。
- 賃貸なら家賃と共益費亡くなっただけでは賃貸借契約は終わりません。明け渡すまで発生し続けます。
- 持ち家なら固定資産税1月1日時点の所有者に課税されます。年をまたぐと、もう1年分来ます。
- 電気・ガス・水道の基本料金止めていなければ、そのまま引き落とされます。
- お部屋の状態これがいちばん大きいところです。時間が経つほど、においも汚れも取りにくくなります。
話し合いを待つほど、費用が増えることがあります
特殊清掃で、費用が最初の見積より膨らむいちばんの理由は時間です。体液が床材の下、さらに下地まで進んでしまうと、清掃では済まなくなり、剥がして張り替える工事になります。工事に入ると金額の桁が変わります。
「誰が払うか決まってから」と待っている間に、その払うべき金額自体が増えていくという構造です。順番としては、先に見積を取り、費用の見込みを持ったうえで話し合われるほうが、話も進みやすくなります。
まとまらなくても、できること
1預貯金の一部を、単独で払い戻す
遺産分割の前でも、預貯金債権のうち一定額までは各相続人が単独で権利を行使できます1。葬儀や片付けの費用に充てられます。金融機関ごとに上限があります。手順は別の記事にまとめました。
2見積を取っておく
見積を取ることは、財産の処分ではありません。金額が分かれば、話し合いの材料になります。契約や着手は、決まってからで構いません。
3一部だけ先に分割する
共同相続人は、いつでも協議で遺産の全部又は一部の分割ができるとされています1。全部を一度に決めなくても構いません。
4家庭裁判所に分割を請求する
協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人が家庭裁判所に請求できます1。次の章に費用を書きます。
ただし「処分」に当たる行為には注意してください
相続放棄を考えている方は、ここが分かれ目です。民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなすと定めています。ただし書で、保存行為は除かれています1。
どこまでが保存行為で、どこからが処分にあたるかは、個別の判断になります。当サイトでは判定できません。放棄を検討されている場合は、片付けに手をつける前に相続放棄と片付けの記事をご覧いただき、弁護士または司法書士にご相談ください。
家庭裁判所に持っていく場合
裁判所は、遺産分割の調停についてこう説明しています。
被相続人が亡くなり,その遺産の分割について相続人の間で話合いがつかない場合には家庭裁判所の遺産分割の調停又は審判の手続を利用することができます
裁判所「遺産分割調停」2
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立てをする人 | 共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人 |
| 申立先 | 相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所 |
| 費用 | 被相続人1人につき収入印紙1,200円分+連絡用の郵便切手 |
| まとまらない場合 | 自動的に審判手続が開始され、裁判官が審判をすることになります |
裁判所「遺産分割調停」より2。郵便切手の額は裁判所ごとに異なります。
審判では、裁判官が「遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して」判断します2。条文にも、遺産の分割は物や権利の種類・性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態、生活の状況その他一切の事情を考慮してする、と定められています1。
お部屋の片付けとの関係でいえば、調停や審判を待つ必要はありません。清掃は財産の分け方の話ではなく、建物の状態を戻す話だからです。賃貸であれば、貸主との関係で先に進める必要が出てきます。
賃貸のお部屋の場合は、別の時計も動いています
持ち家と賃貸で、いちばん違うのがここです。賃貸のお部屋は、相続人の話し合いとは別に、貸主との関係が進みます。
- 家賃の発生明け渡すまで続きます。話し合いの長さがそのまま金額になります。
- 原状回復の請求貸主や管理会社から、清掃と原状回復の見積が届きます。負担の切り分けは国交省ガイドラインの記事をご覧ください。
- 連帯保証人への請求相続人とは別に、保証人が求められることがあります。保証人の方へのページがあります。
貸主・管理会社の側の視点は入居者が亡くなったときに、費用を誰が払うことになるのかは別の記事にまとめました。
この記事の要点
- 相続人が数人いるとき、相続財産はその共有に属します(民法898条)。だから単独では動かせないものが出てきます。
- 止まるのは、不動産の名義変更(本登記)と、遺産そのものの売却・処分です。
- 止まらないのは、相続放棄の3か月(915条)、準確定申告の4か月、相続税の10か月、相続登記の3年、遺産分割の10年です。
- 賃貸のお部屋なら、明け渡すまで家賃や共益費が発生し続けます。持ち家なら固定資産税が来ます。
- 預貯金は、遺産分割の前でも一定額まで単独で払い戻せます(909条の2)。葬儀や片付けの費用に充てられます。
- 協議が調わないときは、家庭裁判所に分割を請求できます(907条2項)。調停は被相続人1人につき収入印紙1,200円分です。
- 相続財産を処分すると単純承認とみなされることがあります(921条1号)。放棄を考えている方は、片付けの前にご確認ください。
よくあるご質問
相続人の一人と連絡が取れません。それでも片付けを進めていいですか
賃貸で貸主から明け渡しを求められている場合など、進めざるを得ない状況はあります。ただし相続財産の処分にあたる行為は、放棄を考えている方にとって不利に働くことがあります。連絡の取れない方がいる場合の進め方は、弁護士または司法書士にご相談ください。当サイトでは個別の判断はいたしかねます。1
話し合いがまとまるまで、家賃を止めてもらえませんか
死亡だけでは賃貸借契約は終了せず、明け渡しまで賃料が発生するのが原則です。早く止めたい場合は、解約と明け渡しの手続きを先に進めることになります。契約の内容によりますので、管理会社にご確認ください。
一人が費用を立て替えた場合、あとで清算できますか
相続人の間の清算の問題として扱われます。領収書と、いつ何のために支払ったかの記録を残しておいてください。分割の話し合いの中で扱うか、家庭裁判所の手続きで扱うかは状況によります。2
調停を申し立てると、関係が悪くなりませんか
調停は、裁判官と調停委員が間に入って話し合う手続きです。当事者同士で直接やり取りしなくて済む点を利点と考える方もいます。まとまらない場合は自動的に審判に移り、裁判官が判断することになります。2
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出典
- e-Gov法令検索(デジタル庁)「民法(明治29年法律第89号)第7条・第11条・第15条・第465条の2・第465条の4・第621条・第653条・第654条・第656条・第885条・第896条・第897条・第898条・第899条・第904条の3・第906条・第907条・第909条の2・第915条・第921条・第939条・第940条」https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(2026-08-18取得)
- 裁判所「遺産分割調停(話合いがつかない場合の家庭裁判所の手続。まとまらない場合は自動的に審判手続が開始される。被相続人1人につき収入印紙1,200円分)」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html(2026-08-18取得)
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