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コラム/統計の読み方

国に引き取ってもらう前に断られた数より、
取り下げた数のほうが多い。

家の片付けが終わり、建物のことも片が付いて、売れない山林や田畑だけが残った。「国が引き取ってくれる制度があるらしい」と聞いて、申請するかどうかを決めかねている。そういう段階の方に向けて書きます。

法務省が、この制度の運用状況を件数で公開しています。令和8年7月31日現在で、却下85件・不承認96件に対して、取下げが1,102件。断られた数より、自分から降りた数のほうが多い制度です。その理由の内訳まで公開されているので、申請の前に何を確かめればよいかを、そこから逆に組み立てます。

机に広げた書類と電卓、ルーペ

何件申請され、何件が国のものになったのか

法務省民事局が、相続土地国庫帰属制度の運用状況を件数で公開しています。四半期ごとに更新されるページで、数値はいずれも速報値と断られています1。以下は、令和8年7月31日現在の数字です1。

区分件数
申請件数5,863 件1
帰属件数3,008 件1
却下件数85 件1
不承認件数96 件1
取下げ件数1,102 件1

法務省民事局「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年7月31日現在・速報値)より1。ページの更新日は令和8年8月21日です1。

先に、この表の読み方を一つだけ決めておきます。帰属・却下・不承認・取下げを足すと4,291件で、申請件数との差は1,572件です。この差し引きは当サイトが計算したもので、1,572件がどういう状態にあるのかは、法務省のページに書かれていません。審査中なのか、別の扱いなのかを示す記載がないので、当サイトでは判断できません。

ですから「承認率◯%」とは書けません

承認率を出すには、結果が確定した件数を母数に置くか、申請件数を母数に置くかを決める必要があります。ところが申請5,863件のうち1,572件は状態が示されていないため、どちらの母数も原典からは作れません。

参考までに、結果が出ている4,291件(当サイトの計算)の内訳を割ると、帰属が70.1%、取下げが25.7%、却下が2.0%、不承認が2.2%になります。これは当サイトが割った数字で、法務省が承認率として公表しているものではありません。

断られた数より、自分から降りた数のほうが多い

この統計でいちばん目を引くのは、取下げの多さです。却下85件と不承認96件を足すと181件。それに対して取下げは1,102件で、断られた件数のおよそ6倍にあたります(この倍率は当サイトで割ったものです)1。

法務省は、取下げの理由も内訳で示しています1。

取下げの理由件数
有効活用の見込みが生じた571 件1
却下・不承認であることが判明した392 件1
その他139 件1

3つを足すと1,102件で、取下げの総数と一致します。

読み方が二つに割れます。571件は、申請してからほかの引き受け手が見つかったという向きです。法務省は、有効活用の見込みが生じて取り下げられた例として、次の3つを挙げています1。

  • 自治体・国の機関土地の有効活用が決定した。
  • 隣接地の所有者土地の引き受けの申出があった。
  • 農業委員会調整等により農地として活用される見込みとなった。

もう一つの向きが392件で、こちらは却下・不承認にあたると分かって降りたものです。審査の途中で法務局から指摘を受け、結果が出る前に引いた形になります。この392件を却下・不承認の181件に足すと573件。要件で止まった土地は、公表された「断られた件数」のおよそ3倍あることになります(これも当サイトの足し算です)。

取り下げても、審査手数料は戻りません

審査手数料は土地一筆当たり14,000円で、申請書に収入印紙を貼って納付します2。法務省は、手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果却下・不承認となった場合でも、手数料を返還できないと案内しています2。

取下げ1,102件は、この14,000円を払ったあとで降りた件数です。だからこの記事は、次の章から「申請の前に何を確かめるか」の話になります。制度そのものの要件は国庫帰属の要件と負担金にまとめています。

却下85件は、土地の中身より書類と境界で落ちています

却下は、審査に入る前の入口で止められるものです。法務省は理由ごとの件数を出しており、多い順に並べるとこうなります1。

却下の理由件数
法第3条第1項及び施行規則第3条各号に定める添付書類の提出がなかった(法第4条第1項第2号)37 件1
境界が明らかでない土地(法第2条第3項第5号)23 件1
現に通路の用に供されている土地(施行令第2条第1号)22 件1
承認申請が申請の権限を有しない者の申請(法第4条第1項第1号)10 件1
建物の存する土地(法第2条第3項第1号)4 件1
現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地(施行令第2条第4号)1 件1

法務省は「1つの事件で複数の却下の理由又は不承認の理由が認められる場合があります」と注記しています1。したがって理由ごとの合計(97)は、却下件数の85とは一致しません。

最も多いのが添付書類の不足です。土地の性質ではなく、書類でつまずいた件数が37件ある。法務省が「全ての申請者が添付必須の書面」として挙げているのは、次の4点です2。

  • 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面2
  • 承認申請に係る土地と隣接する土地との境界点を明らかにする写真2
  • 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真2
  • 申請者の印鑑証明書(市区町村作成)2

2番目に多い境界(23件)も、この2つめの写真と地続きの話です。現地に立って、隣の土地との境がどこか指せるか。指せないなら、そこから先に手を付けることになります。

3番目の「現に通路の用に供されている土地」22件は、見落としやすいところです。名義の上では自分の土地でも、実際に人が通る道になっていれば、この理由に当たります。私道や、田畑のあいだの農道、墓地へ上がる道などが、名寄帳を取って初めて出てくることがあります(名寄帳で土地を洗い出す)。

いっぽう、建物の存する土地での却下は4件でした1。当サイトが前の記事で「多くの方がここで止まります」と書いた要件が、却下の理由としては最も少ない部類に入っています。なぜそうなっているのかを説明した資料は、当サイトでは確認できていません。

不承認96件は、地上に物が残っている土地が最多です

不承認は、申請自体は受け付けられたうえで、審査の結果として承認されなかったものです。理由の内訳は次のとおりです1。

不承認の理由件数
土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地(法第5条第1項第2号)46 件1
国による追加の整備が必要な森林(施行令第4条第3項第3号)37 件1
災害の危険により、土地や土地周辺の人、財産に被害を生じさせるおそれを防止するための措置が必要な土地(施行令第4条第3項第1号)11 件1
国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地(施行令第4条第3項第4号)10 件1
崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの(法第5条第1項第1号)7 件1
所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(施行令第4条第2項第2号)6 件1
民法上の通行権利が現に妨げられている土地(施行令第4条第2項第1号)4 件1
除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地(法第5条第1項第3号)3 件1

こちらも1件で複数の理由が認められる場合があるため、合計(124)は不承認件数の96と一致しません1。

最多の46件は、地上に物が残っている土地です。条文が挙げているのは工作物・車両・樹木その他の有体物1。実家の敷地でいえば、物置、朽ちた納屋、置きっぱなしの農機具、動かない車、伸びた庭木が、そのままここに当たり得ます。

建物を解体すれば申請できる、という話ではないわけです。建物を消したあと、地面の上に何が残っているかまでが見られます。解体の前後に何をするかは解体したら1か月以内に滅失登記と、当サイトの実家の片付けのページに書いています。

2番目の37件が森林です。「国による追加の整備が必要な森林」という区分で、放置された人工林がここに入ります1。山林を持っている方には、この数字が効きます。

田畑がいちばん多く申請され、宅地がいちばん多く通っています

法務省は、申請を登記上の地目別で、帰属を国有地の種目別で公表しています1。並べると次のようになります。かっこ内の割合は、当サイトが総数で割ったものです。

申請(地目別)5,863件帰属(種目別)3,008件
田・畑 2,278 件(38.9%)1宅地 1,115 件(37.1%)1
宅地 2,040 件(34.8%)1農用地 964 件(32.0%)1
山林 893 件(15.2%)1森林 199 件(6.6%)1
その他 652 件(11.1%)1その他 730 件(24.3%)1

それぞれ足すと5,863件・3,008件になり、総数と一致します。割合は当サイトの計算です。

この2列を割り算しないでください

左右は同じ土地を追いかけた数字ではありません。左は申請時点の登記上の地目、右は国庫に帰属した土地の国有地としての種目で、区分の立て方が違います。申請した時期と帰属した時期もそろっていません。

ですから「山林は199÷893で◯%しか通らない」という計算は成り立ちません。当サイトでは、地目ごとの通過率を示す公的な数字を確認できていません。

そのうえで、構成比の傾きだけは読めます。申請では山林が15.2%を占めるのに、帰属では森林が6.6%です。不承認の理由で「国による追加の整備が必要な森林」が2番目に多かったこと1と、向きとしてはそろっています。山林を手放したい方は、申請より先に、その山が今どういう状態かを確かめる段取りになります。

逆に、帰属では「その他」が24.3%と、申請時の11.1%より厚くなっています。この差が何によるものかも、統計からは読み取れません。

この統計に書かれていないこと

当サイトが調べて、原典に見つけられなかったものを挙げます。書けないことを書けないと示しておくほうが、あとで役に立つと考えています。

知りたいこと確認できたかどうか
都道府県別の件数統計ページに掲載がありません1。愛知県・岐阜県・三重県の件数を示す公的な集計を、当サイトでは確認できませんでした
審査中の件数示されていません。当サイトの差し引きで1,572件になりますが、その内訳は分かりません
申請から結果までの期間統計にも制度の概要ページにも記載を確認できませんでした2
却下・不承認になった土地のその後記載がありません
負担金として実際に納付された額統計には件数だけで、金額の集計はありません1

都道府県別が無い以上、「愛知県では通りやすい」といった地域差は、当サイトでは書けません。お住まいの地域での見通しを知りたい場合は、土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)にお尋ねください。法務省は、全国の法務局・地方法務局で制度の利用に関する相談を受け付けていると案内しています2。土地が遠方にあって申請先の本局に相談しづらい場合は、近くの本局でも相談できるとされています2。

速報値であることも、書いてあります

法務省はページの冒頭で「公開している数値はいずれも速報値であることにご留意ください」と断り、今後の運用状況に合わせて順次内容を更新していくとしています1。

この記事の数字は令和8年7月31日現在のものです。数か月後には別の数字に置き換わります。件数そのものより、どの理由でどれだけ落ちているかという形のほうを持ち帰ってください。

申請の前に確かめること

ここまでの内訳から、順番を逆に組み立てます。手数料は取り下げても戻らないので2、確かめる順に並べました。

1引き受け手がいないか、先に当たる

取下げの理由で最も多い571件が「有効活用の見込みが生じた」でした1。挙がっている例は自治体や国の機関、隣接地の所有者、農業委員会です1。申請より先に当たっておけば、14,000円を払う前に決着します。愛知県は「あいち空き家活用さかさま相談室」というマッチングの窓口を設けていますが、こちらの対象は県内で空き家に住みたい方・活用して店などを始めたい方で、空き家所有者の方は所在市町村の担当課へご相談くださいと案内されています3。空き家情報は市町村から提供される仕組みなので、持っている側の入口は市町村の窓口です3。

2地面の上に、何が残っているかを見る

不承認の理由で最も多い46件が、地上の工作物・車両・樹木その他の有体物です1。物置、納屋、農機具、動かない車、伸びた庭木。建物を解体しても、これらが残っていれば同じところで止まります。片付けと伐採・撤去は、申請の前の工程です。

3境界を、現地で指せるか確かめる

却下の2番目が境界の23件1。添付書類には隣接する土地との境界点を明らかにする写真が要ります2。写真が撮れないなら、まだ申請の段階ではありません。

4その土地が、道になっていないか

「現に通路の用に供されている土地」で22件が却下されています1。私道、農道、墓地へ上がる道。名寄帳を取ると、自分の名義だと知らなかった細長い土地が出てくることがあります(名寄帳の記事)。

5添付書類を、先にそろえる

却下の最多37件が書類の不足です1。全員が必要なのは、位置及び範囲を明らかにする図面、境界点の写真、形状の写真、印鑑証明書の4点2。申請先は土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局の本局で、支局・出張所では受付ができません2。

ここまでを確かめて、それでも引き受け手が見つからず、地面の上も片付いている。そのときに初めて、申請の話になります。要件と負担金は前の記事に、売る道が残っているかどうかは空き家の3,000万円特別控除にまとめました。

この記事の要点

よくあるご質問

承認率は何%ですか

法務省の統計に承認率の記載はありません。申請5,863件のうち、帰属・却下・不承認・取下げを足した4,291件を差し引くと1,572件が残りますが、この1,572件がどういう状態かは示されていないため、当サイトでは母数を決められません。参考として、結果が出ている4,291件で割ると帰属は70.1%になりますが、これは当サイトが割った数字で、公表された承認率ではありません。1

愛知県では何件が国に引き取られていますか

都道府県別の内訳は、法務省の統計ページに掲載されていません。当サイトでは、県ごとの件数を示す公的な集計も確認できませんでした。地域の状況については、土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局の本局にお尋ねください。制度の利用に関する相談は、全国の法務局・地方法務局で受け付けているとされています。1,2

申請を取り下げたら、手数料は返ってきますか

返還されません。法務省は、手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果却下・不承認となった場合でも、手数料を返還できないと案内しています。審査手数料は土地一筆当たり14,000円です。取下げが1,102件あるということは、それだけの件数が手数料を納めたあとで降りているということになります。2,1

山林は通りにくいのですか

通りやすさを数字で示すことは、当サイトではできません。申請は登記上の地目別、帰属は国有地の種目別で公表されていて、同じ土地を追いかけた集計ではないためです。分かるのは、申請では山林が15.2%を占めるのに帰属では森林が6.6%であること、不承認の理由では「国による追加の整備が必要な森林」が37件と2番目に多いことまでです(割合は当サイトの計算)。1

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出典

  1. 法務省民事局「相続土地国庫帰属制度の統計(令和8年7月31日現在・速報値。ページ更新日は令和8年8月21日。冒頭に「公開している数値はいずれも速報値であることにご留意ください」。申請件数5,863件、地目別は田・畑2,278件/宅地2,040件/山林893件/その他652件。帰属件数3,008件、種目別は宅地1,115件/農用地964件/森林199件/その他730件。却下件数85件、理由の内訳は添付書類の提出がなかった〈法第4条第1項第2号〉37件/境界が明らかでない土地〈法第2条第3項第5号〉23件/現に通路の用に供されている土地〈施行令第2条第1号〉22件/申請の権限を有しない者の申請〈法第4条第1項第1号〉10件/建物の存する土地〈法第2条第3項第1号〉4件/現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地〈施行令第2条第4号〉1件。不承認件数96件、理由の内訳は管理又は処分を阻害する工作物・車両・樹木その他の有体物が地上に存する土地〈法第5条第1項第2号〉46件/国による追加の整備が必要な森林〈施行令第4条第3項第3号〉37件/災害の危険により措置が必要な土地〈施行令第4条第3項第1号〉11件/国が管理費用以外の金銭債務を負担する土地〈施行令第4条第3項第4号〉10件/崖(勾配30度以上かつ高さ5メートル以上)で通常の管理に過分の費用又は労力を要するもの〈法第5条第1項第1号〉7件/所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地〈施行令第4条第2項第2号〉6件/民法上の通行権利が現に妨げられている土地〈施行令第4条第2項第1号〉4件/除去しなければ管理又は処分ができない有体物が地下に存する土地〈法第5条第1項第3号〉3件。「1つの事件で複数の却下の理由又は不承認の理由が認められる場合があります」と注記。取下げ件数1,102件、内訳は有効活用の見込みが生じた571件/却下・不承認であることが判明した392件/その他139件。有効活用の見込みが生じた例として「自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した」「隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった」「農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった」を掲載。都道府県別の内訳・審査中の件数・審査期間の記載はない)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html(2026-09-05取得)
  2. 法務省民事局「相続土地国庫帰属制度の概要」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html(2026-08-12取得)
  3. 愛知県建築局住宅計画課「あいち空き家活用さかさま相談室」https://www.pref.aichi.jp/soshiki/jutakukeikaku/matching-platform.html(2026-08-09取得)

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