亡くなったのが土曜日でした。その日の終値がありません
財産評価基本通達は、課税時期に最終価格がない場合について、課税時期の前日以前の最終価格または翌日以後の最終価格のうち、課税時期に最も近い日の最終価格を課税時期の最終価格とすると定めています。その最終価格が2つあるときは平均額です。土曜日であれば、前日の金曜日のほうが翌週の月曜日より近い側になります。ただし権利落等がある場合は別の定めが働きますので、実際の判定は税務署または税理士にご確認ください。2,1
コラム/相続と手続き
遺品の中から証券会社の取引報告書や、ネット証券の案内が出てきた。株価が動いているあいだに売ってしまってよいのか、迷っている。そういう段階の方に向けたページです。
先に一つだけ書きます。上場株式の相続税評価は、亡くなった日の終値で固定されるわけではありません。終値・当月・前月・前々月という4つの価額を並べ、いちばん低い価額で評価することになっています。

国税庁は、上場株式の評価をこう説明しています。金融商品取引所が公表する課税時期の最終価格によって評価する。ここでいう課税時期とは、相続または遺贈の場合は被相続人の死亡の日を指します1。
ここで止まると、亡くなった日の終値がそのまま評価額になります。原則はそのとおりですが、続きがあります。財産評価基本通達169の但し書きです。
ただし、その最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」という。)のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する。
国税庁「財産評価基本通達 第8章第1節 株式及び出資」169(1)2
「課税時期の属する月以前3か月間」を月ごとにほどくと、タックスアンサーが並べている3つになります1。終値と合わせて、机の上に置く数字は4つです。
| 並べる価額 | 中身 |
|---|---|
| ① 課税時期の最終価格 | 亡くなった日の終値1 |
| ② 当月の月平均額 | 課税時期の属する月の毎日の最終価格の月平均額1 |
| ③ 前月の月平均額 | 課税時期の属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額1 |
| ④ 前々月の月平均額 | 課税時期の属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額1 |
①が②〜④のうち最も低い価額を超えるときは、その最も低い価額によって評価します1,2。
意味するところは単純です。亡くなった日がたまたま高値だった場合、その日の終値に縛られません。逆に相場が上がっている局面では、①がいちばん低くなることもあります。どれが低いかは、4つとも出してみるまで分かりません。
評価のための様式も用意されています。「上場株式の評価明細書」といい、相続税または贈与税の申告に際して上場株式の価額を評価するために使うもので、申告書に明細書として添付します3。様式は国税庁のページから入手できます3。
亡くなった日が土曜日や日曜日、祝日だったら、その日の終値はありません。ここも通達に書かれています。
1課税時期に最終価格がないとき
課税時期の前日以前の最終価格または翌日以後の最終価格のうち、課税時期に最も近い日の最終価格を使います。近い日の最終価格が2つある場合は、その平均額です2。土曜日なら前日の金曜日、日曜日なら翌週の月曜日が近い側になります。連休の中日などで前後の距離が並んだときに、平均をとる形になります。
2国内の2つ以上の取引所に上場しているとき
通達169(1)の括弧書きに、納税義務者が選択した金融商品取引所とすると書かれています2。取引所ごとに終値は少し違います。選ぶ余地があるという意味です。
月平均額は、自分で数えられる数字ではありません
①の終値は新聞や証券会社の資料で確かめられますが、②〜④はその月の営業日すべての終値を平均した数字です1。手で集計すると取りこぼしが出ます。
当サイトでは、月平均額の公的な入手先を確認できていません。口座のある証券会社か、相続税の申告を依頼する税理士にご相談ください。
同じ証券口座に入っていても、投資信託は上場株式と評価の考え方が違います。国税庁は、証券投資信託受益証券について課税時期において解約請求または買取請求を行ったとした場合に証券会社などから支払いを受けることができる価額により評価する、としています4。基準価額そのものではなく、解約したら手元にいくら来るか、という見方です。
算式は2通りに分かれます。中期国債ファンドやMMFなどの日々決算型と、それ以外です4。どちらも基準価額に口数を掛けたところから、源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額や、信託財産留保額および解約手数料を調整する形になっています4。
そして、ここが分かれ目になります。証券口座の中には、取引所で売買できる投資信託(いわゆるETF)が入っていることがあります。国税庁の注記です。
証券投資信託の受益証券の中には、現在、金融商品取引所に上場されているものがありますが、このような受益証券については、解約請求等を前提とした評価方法は適切ではないことから、上場株式の評価の定めに準じて評価します。
国税庁「No.4644 貸付信託・証券投資信託の評価」4
通達199の注も同じことを、169から172までの定めに準じて評価する、と書いています5。上場されている投信は、株と同じく4つの価額を並べる側に回ります。取引報告書に並んでいるものを、まず「上場か、そうでないか」で分けてください。
片付けの現場では、証券会社の封筒が1通だけ出てくる、ということがよくあります。他にも口座があるのか、それで全部なのかが分からない。そのための制度が、証券保管振替機構(ほふり)にあります。
登録済加入者情報の開示請求(以下「開示請求」)は、振替株式等に係る口座が開設されている証券会社、信託銀行等(口座管理機関)を有料で確認することができる制度です。
株式会社証券保管振替機構「登録済加入者情報の開示請求」6
この機構は株式会社ですが、社債株式等振替法3条にいう振替業を営む者として主務大臣の指定を受けた法人で、金融庁が公表している振替機関の一覧に載っています7,8。開示請求そのものは、機構自身の説明によれば個人情報保護法33条にもとづくもので、費用は同法38条2項の「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内」という定めに沿って決められています9,10。
先に、期待しすぎないための線引きを書きます。
| 分かること | 分からないこと |
|---|---|
| 振替株式等の口座が開示時点において開設されている証券会社、信託銀行等の一覧6 | 振替株式等の銘柄名、取引履歴、保有残高6 |
| 担保の受入れおよび差入れに関する情報6 | 非上場株式のうち機構取扱対象でないもの、外国株式、国債、社債等の口座が開設されている証券会社、信託銀行等の一覧6 |
残高は、開示結果をもとに各証券会社・信託銀行等へ直接問い合わせるよう案内されています6。
つまり「どこに聞けばよいか」が分かる制度で、「何をいくら持っていたか」は分かりません。それでも、心当たりのない証券会社が出てくれば、そこから先へ進めます。
法定相続人が請求する場合は、開示請求書、法定相続人の本人確認書類、法定相続情報一覧図(コピー)または被相続人との関係を示す戸籍等、被相続人の住所の確認書類です11。相続人が複数いても、そのうち1名で手続きできます11。
窓口での受付は行われておらず、郵送だけです12。宛先は日本橋茅場町郵便局留で、局留の記載がないと到着が遅れると案内されています12。受付後のキャンセルはできません12。
「登録済加入者情報通知書」が、郵便局の代金引換サービス(簡易書留)で届きます。開示費用は、そのとき郵便局の職員に払います12。送付先は請求者の本人確認書類上の住所です12。
機構は、開示費用の改定を公表しています。改定日は2026年10月1日(木)です10。
| 開示請求者の区分 | 改定前(税込) | 2026年10月1日から(税込) |
|---|---|---|
| 本人 | 4,400円10 | 6,050円10 |
| 法定相続人(法定相続情報一覧図の利用あり) | 4,950円10 | 6,050円10 |
| 法定相続人(法定相続情報一覧図の利用なし) | 6,050円10 | 7,700円10 |
| 遺言執行者 | 6,050円10 | 6,050円10 |
株式会社証券保管振替機構「登録済加入者情報の開示請求に係る費用改定のお知らせ」(改定日2026年10月1日)より10。
どちらの費用になるかは、開示請求書を提出した郵便の消印日で決まります。消印日が2026年10月1日以降であれば改定後の額です10。9月30日の消印で送ったあと、不備で10月以降に追加書類を出した場合は、引き続き改定前の額が適用される、とも書かれています10。
表を見ていただくと、改定後も法定相続情報一覧図を出すかどうかで1,650円の差が残ります10。一覧図そのものは、法務局が無料で交付する書類です14。相続登記や預貯金の手続きでも使い回せるので、先に作っておくと、ここでも効いてきます(法定相続情報一覧図の記事)。
もうひとつ。被相続人の「最後の住所」に、調べたい住所が記載されていれば、その一覧図を「被相続人の住所の確認書類」としても使えます11。1枚で2つの役割を果たします。
該当がなくても、費用はかかります
問い合わせ先は開示請求事務センター(03-5665-3642、土日祝日および年末年始を除く10時〜16時)です6。ただし、開示結果そのものを電話で回答することは行われていません12。
ここからは、片付けの手が動き始めてからの話です。相続税の評価とは別に、その株を売ったときの所得税で効いてくる紙があります。
相続で取得した株式等の取得費は、被相続人の取得費を引き継ぎます15。亡くなった日の値段で買い直したことにはなりません。つまり、故人が何十年前にいくらで買ったのかが、売却益の計算に残り続けます。
その取得価額をどうやって確かめるか。国税庁が確認方法を4段階で示しています。
| 順番 | 確かめる先 |
|---|---|
| ① | 取引報告書。取引残高報告書、月次報告書、受渡計算書などで確認できる場合もあります16 |
| ② | 取引した金融商品取引業者等の「顧客勘定元帳」。過去10年以内に購入したものであれば確認できます。10年より前の取引情報が任意に保存されている場合もあります16 |
| ③ | 本人の手控え。日記帳や預金通帳など16 |
| ④ | ①〜③で確認できないとき。株主名簿・複本・株式異動証明書などから名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に計算します16 |
国税庁「上場株式等の取得価額の確認方法」より16。
①と③は、部屋の中にしかありません。証券会社の封筒、古い預金通帳、日記や家計簿。これらを先にまとめてから、紙類の処分に入ってください。片付けの段取りそのものは先にそろえる物と、手を付ける順番に書いています。
どうしても分からない場合の逃げ道も用意されており、取得費の額を売却代金の5パーセント相当額とすることが認められています15。ただしこれは、実際の取得費が5パーセントより高かった場合には、その差の分だけ税金が増える計算になります。
NISA口座に入っていた株は、扱いが違います
非課税口座(NISA)や未成年者口座(ジュニアNISA)に受け入れられていた上場株式等が、相続または遺贈により払い出された場合は、原則としてその相続開始日の終値に相当する金額で取得したものとみなされます15。この場合は、故人の取得費を引き継ぎません。
どの株がNISA口座にあったかは、取引残高報告書や証券会社の案内で分かります。ここでも紙が要ります。
評価の話は、期限の中で進みます。相続税の申告書は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に提出しなければならないと相続税法27条が定めています13。もっとも、取得した財産の価額の合計額が遺産に係る基礎控除額の範囲内であれば、申告も納税も必要ありません17。まず要否から確かめる順番になります(相続税の申告は10か月)。
売る側の期限もあります。相続税を納めた方がその財産を譲渡する場合、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していれば、相続税額のうち一定金額を取得費に加算できます18。詳しくは取得費加算の記事に書きました。
そのうえで、当サイトが書けないことを正直に並べます。
片付けのほうは、期限で追われる作業ではありません。書類を分けて、封筒をひとまとめにする。そこまでで一度手を止めても、後戻りはしません。
財産評価基本通達は、課税時期に最終価格がない場合について、課税時期の前日以前の最終価格または翌日以後の最終価格のうち、課税時期に最も近い日の最終価格を課税時期の最終価格とすると定めています。その最終価格が2つあるときは平均額です。土曜日であれば、前日の金曜日のほうが翌週の月曜日より近い側になります。ただし権利落等がある場合は別の定めが働きますので、実際の判定は税務署または税理士にご確認ください。2,1
通達は、課税時期の最終価格が3か月分の月平均額のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する、と書いています。低いものを選んでよい、というより、条件に当たれば低いほうで評価することになる、という書き方です。ただし負担付贈与や個人間の対価を伴う取引で取得した上場株式は、課税時期の最終価格によって評価するとされています。個別の申告で使えるかどうかは当サイトでは判断できません。2,1
国税庁は、非課税口座(NISA)や未成年者口座(ジュニアNISA)に受け入れられていた上場株式等が相続、遺贈または贈与により払い出された場合は、原則としてその相続開始日または贈与の日の終値に相当する金額で取得したものとみなされる、としています。通常の相続と違い、被相続人の取得費を引き継ぐ形にはなりません。どの株がNISA口座にあったかは、証券会社の報告書でご確認ください。15
財産評価基本通達は、配当金交付の基準日の翌日から配当金交付の効力が発生する日までの間における配当金を受けることができる権利を「配当期待権」として区分し、課税時期後に受けると見込まれる予想配当の金額から、その金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を控除した金額で評価すると定めています。基準日と亡くなった日の前後関係で扱いが変わりますので、通帳の入金日だけで判断せず、税理士にご相談ください。19,2
会社の許可・料金・サービス内容は変わります。当サイトは取得日を添えて記録していますが、依頼の前にご自身でも最新の内容をご確認ください。