お布施の領収書がありません
国税庁は、お寺などに対して読経料などのお礼をした費用を、差し引けるものとして挙げています。今回確認したタックスアンサー2本と相続税法基本通達第13条関係には「領収書」という語が出てきません。ただし通達には「被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるもの」という限定があり、金額がいくらまでなら相当程度かは書かれていません。当サイトでは判断できませんので、支払先・日付・金額を控えたうえで、税務署または税理士にご確認ください。10,8
コラム/亡くなった後の実務
葬儀が終わって、請求書と領収書が手元に残っている。相続税の申告が要るのかどうかも、まだ分からない。その段階の方に向けたページです。
相続税を計算するとき、葬式費用は遺産総額から差し引けます。ただし、何が葬式費用に当たるかは条文に書かれていません。線を引いているのは、国税庁の通達です。

先に、混ざりやすいところを分けます。亡くなったあとに出てくる「葬儀のお金」の話は、二つあるからです。
| 葬祭費・埋葬料 | この記事の話 | |
|---|---|---|
| 何をするか | 健康保険から受け取る | 相続税の計算で差し引く |
| 根拠 | 国民健康保険法58条1項1/健康保険法100条1項2 | 相続税法13条1項2号3 |
| 窓口 | 区役所・支所、勤務先や健康保険組合 | 税務署(相続税の申告書)4 |
| 関係する人 | 葬祭を行った方 | 相続税の申告をする方だけ |
左側については葬祭費と埋葬料の記事に、届出の実務は健康保険の届出(14日以内)に書いています。
右側、つまりこの記事は相続税がかかる場合にだけ意味のある話です。課税価格の合計額が基礎控除額を超えなければ、そもそも申告が要りません5。
相続税法13条1項は、遺産の価額から差し引けるものを二つだけ挙げています。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
相続税法 第13条第1項3
これだけです。何が葬式費用なのかは、条文のどこにも書かれていません。その事情を明文で書いた資料が、名古屋国税局の文書回答事例に添えられた別紙にあります。
相続税法は、葬式費用の範囲について定めていません。
葬式は、葬儀、葬礼、おとむらいともいい、死者を葬る儀式をいうものとされ、宗教や地域的慣習によりその様式が異なるので何が葬式費用であるかの判定は極めて難しい問題であり、個々の具体例について社会通念に即して判断するほかはない
名古屋国税局「告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについて」別紙6
この別紙は、照会した側が示した見解です。これに対して名古屋国税局審理課長は、平成22年11月5日付で「貴見のとおりで差し支えありません」と回答しています7。以下、この記事で別紙を引くときは、そういう性質の資料としてお読みください。
判断の目安を示しているのは、相続税法基本通達13-4と13-5です8。以下で引くのは、この二つになります。
なお、葬式費用は「債務」ではありません。国税庁も「葬式費用は債務ではありませんが、相続税を計算するときは遺産総額から差し引くことができます」と書いています9。後の章で効いてくるので、覚えておいてください。
国税庁のタックスアンサーが挙げているのは、次の五つです10。右の列は、その根拠になっている通達の号です。
| 遺産総額から差し引ける費用(国税庁 No.4129) | 根拠 |
|---|---|
| 葬式や葬送に際し、またはこれらの前において、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用(仮葬式と本葬式を行ったときには、その両方の費用)10 | 13-4(1) |
| 遺体や遺骨の回送にかかった費用10 | 13-4(1) |
| 葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用(例えば、お通夜などにかかった費用)10 | 13-4(3) |
| 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用10 | 13-4(2) |
| 死体の捜索または死体や遺骨の運搬にかかった費用10 | 13-4(4) |
左は国税庁タックスアンサー No.4129(令和8年4月1日現在法令等)10。右は相続税法基本通達 第13条《債務控除》関係の13-48。
上二つが同じ号から来ているのは、通達がこれらをひとまとめに書いているためです。
葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)
相続税法基本通達13-4(1)8
「葬儀社に払った分」ではなく、埋葬・火葬・納骨・回送という行為ごとに並んでいるのが分かると思います。葬儀社の請求書に載っていない支払い、たとえば火葬場の窓口で払った火葬料や、寝台車の代金も、この枠の中で考えることになります。
仮葬式と本葬式の両方を行った場合は、その両方の費用が対象になります10。名古屋国税局の文書回答事例は、住所地と出身地の2か所で告別式を行った事例について、納骨前に行われ、内容も同様であることから、いずれも葬式費用に該当するという照会者の見解でよいと回答しています7,6。
前章の五つのうち、二つは、ふつうの葬儀の案内には出てきません。当サイトが扱っている場面では、これが現実に起きます。
名古屋市内で亡くなった場合の死因調査の仕組みは名古屋市の監察医に、部屋に入れない期間の理由は部屋に入れない期間にまとめています。市内の火葬枠が取れないときの扱いは八事斎場の休止と火葬料です。
もうひとつ、名古屋国税局の文書回答事例には、税務の側が「葬式」をどういう手順の集まりと見ているかが書かれています。
なお、一般的な仏式の葬式は、①遺体の安置、②死亡届の提出、③弔問客の応対、④遺体の処置、⑤僧侶が戒名をつける、⑥納棺、⑦通夜、⑧葬儀、⑨告別式(僧の読経、弔辞、焼香)、⑩出棺・会葬・お礼等の方法手順により行われます。
名古屋国税局 文書回答事例 別紙6
①の遺体の安置が最初に置かれています。検視や解剖の順番待ちで安置の期間が延びる場面は、当サイトの読者には珍しくありません。安置にかかった費用も、この手順の中で発生したものとして記録を残しておいてください。
残しておく支払先・日付・金額の3つ
領収書が出るものは、そのまま保管してください。出ないものについては、誰に・いつ・いくら払ったかを書き留めておく。これは当サイトの考えで、国税庁がその形式を求めているわけではありません。申告が要ると分かったときに、思い出せる状態にしておく、という意味です。
国税庁のタックスアンサーは三つを挙げています。ただし、根拠になっている通達13-5は四つ挙げています。
| 通達13-5「葬式費用として取り扱わないもの」の書き方 | No.4129 |
|---|---|
| 香典返戻費用8(案内では「香典返しのためにかかった費用」)10 | 記載あり |
| 墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料8(案内では「墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用」)10 | 記載あり |
| 法会に要する費用8(案内では「初七日など法事のためにかかった費用」)10 | 記載あり |
| 医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用8 | 記載なし |
四つ目は、通達にだけ置かれた項目です。どの支出がこれに当たるかは書かれておらず、当サイトでは判断できません。
「法事」の線引きについては、名古屋国税局の文書回答事例に説明があります。
法会とは、法事ともいい、初七日、四十九日、1周忌などがあり、死者を葬る儀式である葬式と異なり、死者の追善供養のため営まれるものです。
名古屋国税局 文書回答事例 別紙6
ここが実務でいちばん引っかかるところです。葬儀社の請求書に、初七日の分が一緒に入っていることがあります。火葬の日にそのまま繰り上げて行う形が広まっているためです。請求書が「葬儀一式」でまとまっているなら、内訳を分けてもらってください。見積や請求の内訳を求める考え方は「一式」の見積書に書いた通りです。
お墓についても、もうひとつ注意があります。生前に買ったお墓の代金が未払いのまま残っていた場合、その未払代金は債務としても差し引けません。国税庁は「被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など非課税財産に関する債務は、遺産総額から差し引くことはできません」としています9。通達も同じことを書いています8。
部屋の清掃や原状回復の費用については、当サイトでは判断できません
正直に書きます。今回、国税庁タックスアンサー No.4129・No.4126 と、相続税法基本通達 第13条《債務控除》関係の全文を取得し、機械検索しました(2026年9月5日実施)。「清掃」0件、「原状回復」0件でした10,9,8。
したがって当サイトは、「お部屋の清掃費用は葬式費用として差し引けます」とも「差し引けません」とも書けません。資料に書かれていないからです。この点は税務署または税理士にご確認ください。
お寺へのお布施、戒名料、心付け。領収書が出ないことが多い支払いです。国税庁の案内では、次のように書かれています。
葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
国税庁 タックスアンサー No.4129「葬式費用となるもの」(4)10
差し引ける側です。ただし、根拠になっている通達には、限定が付いています。
葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
相続税法基本通達13-4(2)8
「相当程度」がいくらまでを指すのかは、通達に書かれていません。当サイトでは金額の線を引けません。迷う額であれば、税務署または税理士にご確認ください4。
領収書そのものについては、こう申し上げるのが正確です。今回確認した3つの資料に「領収書」という語は一度も出てきませんでした(No.4129、No.4126、相基通第13条関係。2026年9月5日実施)10,9,8。書式を定めた記載も、添付を求める記載も見当たりません。だからといって「何も残さなくてよい」ということにはなりませんので、前章の3つ(支払先・日付・金額)を控えておいてください。
葬式費用は、遺産全体から一括して引かれるのではありません。国税庁は「一定の相続人および包括受遺者が負担した葬式費用」を差し引けるとしています10。差し引けるのは、その費用を負担することになる相続人や包括受遺者です9。
通達は、負担額が確定していない場合の扱いまで決めています。
これらの者の実際に負担する金額が確定していないときは民法第900条から第902条までの規定による相続分又は包括遺贈の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱う。
相続税法基本通達13-38
もうひとつ、当サイトの読者に関わる定めがあります。相続を放棄した方の扱いです。
相続を放棄した者及び相続権を失った者については、法第13条の規定の適用はないのであるが、その者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、当該負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除しても差し支えないものとする。
相続税法基本通達13-18
読み違えやすいので、そのまま受け取ってください。放棄した方に13条の適用はない、というのが原則です。そのうえで、遺贈によって取得した財産がある場合に、そこから引いてよいという書き方になっています。遺贈で受け取ったものが無ければ、引く先がありません。
放棄を考えている段階なら、お金に触る前にご相談ください
相続放棄と、費用の支払いの順番については、相続放棄と部屋の片付けに整理しています。故人の預貯金から葬儀費用を払ってよいかどうかは、当サイトでは判断できません。預貯金の払戻し制度を使う前に、弁護士または司法書士にご確認ください。
最後に、住所が国外にある方についての注意です。国税庁は、相続人や包括受遺者であっても一定の区分に当てはまらない方は「遺産総額から控除できる債務の範囲が限られ、葬式費用も控除することはできません」としています9。海外にお住まいのごきょうだいが費用を立て替えた、というような場合は、申告の前に確認が要ります。
国税庁は、お寺などに対して読経料などのお礼をした費用を、差し引けるものとして挙げています。今回確認したタックスアンサー2本と相続税法基本通達第13条関係には「領収書」という語が出てきません。ただし通達には「被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるもの」という限定があり、金額がいくらまでなら相当程度かは書かれていません。当サイトでは判断できませんので、支払先・日付・金額を控えたうえで、税務署または税理士にご確認ください。10,8
初七日などの法事にかかった費用は、葬式費用に含まれないものとして挙げられています。名古屋国税局の文書回答事例の別紙は、法会(法事)を「死者を葬る儀式である葬式と異なり、死者の追善供養のため営まれるもの」と説明しています。請求書が一式でまとまっている場合は、葬儀社に内訳を分けてもらってください。どの行がどちらに当たるかの判断は、税務署または税理士にご確認ください。10,6
相続税法基本通達13-1は、相続を放棄した方には相続税法13条の適用がないとしたうえで、現実に葬式費用を負担した場合はその負担額を「その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除しても差し支えない」としています。遺贈で受け取った財産がなければ、差し引く先がありません。放棄の手続きそのものへの影響も含めて、弁護士または司法書士にご確認ください。8
課税価格の合計額が基礎控除額を超え、相続税額があるときに申告が必要になります。当サイトは基礎控除の金額を書いていません。根拠条文の原文を確認していないためです。申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です。要否の判断は税務署または税理士にご確認ください。5,4
会社の許可・料金・サービス内容は変わります。当サイトは取得日を添えて記録していますが、依頼の前にご自身でも最新の内容をご確認ください。